FC2ブログ

写真家 岡田敦 - Office Okada | Official Blog

I kiss the world by taking the photograph

■ JRA発行「ぱどっく」にエッセイを寄稿いたしました

okadaatsushi_0803s.jpg

「北海道、ユルリ島の野生馬」

 馬は走るのが好きな動物だと思っていた。無人島に生息する野生馬と聞けばなおさら、無造作に伸びた鬣を風になびかせ、大地を駆け巡っている姿を想像していた。だが、ユルリ島の馬は穏やかだった。島に自生するミヤコザサをのんびりと食べ、夏は高山植物が咲き乱れる草原のなかでうたた寝をしている。

 私がユルリ島の存在を知ったのは2010年頃だ。当時はインターネットで「ユルリ島」と検索しても「北海道の天然記念物」「根室沖の無人島」「野生馬の楽園」といった簡単な情報しか見つからず、北海道の人にとってもほぼ無名の島だった。私はユルリ島の馬の記録を文化として残す必要性を感じ、写真を撮らせて欲しいと問い合わせた。しかし学術研究以外での上陸は認められておらず、許可をいただくのに約一年半もの時間を費やした。

 ユルリ島に昆布漁の労力として馬が持ち込まれたのは1950年頃だ。多い時には約九軒の番屋がたち島は昆布の干場として利用された。しかしエンジン付きの船が普及すると、島はやがて無人島となった。労力としての馬の役割が終わり、多くの家が馬を売るなか、ユルリ島の馬は「肉として売るのは忍びない」という漁師の思いから、餌も豊富なユルリ島に残された。馬がいることで草丈は低く保たれ貴重な高山植物が美しく咲き誇る。1976年には北海道自然環境保全地域に指定された。しかし2006年、間引きをしていた漁師たちの高齢化もあり、牡馬が島から引き上げられた。

 牡馬がいなくなり、やがて消えゆく運命となったユルリ島の馬。多い時には約30頭の馬が生息していたが、多くの伝統や文化が後継者が途絶え終わりを迎えるように、ユルリ島の馬もこのままいなくなるのだろうと思われていた時、「根室・落石地区と幻の島ユルリを考える会」が昨年設立された。馬の役割が減り、北海道からもその姿が消えてゆくなか、地元の方がどのような答えを導きだすのか、私は楽しみにしている。
 
 
  1. 2018/08/01(水) 00:00:00|
  2. 作品「ユルリ島」関連