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写真家 岡田敦 - Office Okada | Official Blog

I kiss the world by taking the photograph

■ 木村伊兵衛写真賞関連/選考委員の言葉

◇ 選考委員の言葉 東京會舘にて テレビ取材より


篠山紀信

Q:岡田さんの作品「I am」を受賞作に選んだ理由は?

 リストカットという事実が全面的に出てくるから、“時代の病理みたいなものを訴えたい”、“こういうことはしない方がいい”、“こういうことに同情する”といった、つまり、“作者は社会の出来事として、この問題を告発したいのだ”、“世の中に対して発言したいのだ”、とふつうは考えるけれど、あの写真は、そういったことを全然感じさせない写真なんですよ。白バックの中で、ただぼうっと立っているだけ。それは、“メッセージを持つ”ということよりも、もっと深い気持ち。写真にしかできない強い力が、僕なんかには伝わってきたんです。だから、白バックの中での、なんでもない少年、少女の非常に静かな顔が、“今の時代ってこういうことなんだな”、と強く感じさせる。時代が抱えている病理といえば病理なんですけれども、その問題の深さが、すごくストレートに写真によって伝わってくる。これは、なかなか評価すべきことなんじゃないかなと思います。

Q:傷を撮るということについては?

 実はあの写真集には、リストカットをしていない人もたくさん写っているんです。だから、そこの所が、あの作品の鍵ではあるんですが。ただ僕は、それは一つの写真という伝達手段の側面であって、もっと深い今の時代の病理みたいなものが、あの静かな写真からは出てきていると思うのです。僕はそこを評価したのです。

Q:今の時代に、受賞作にする意味あいは?

 みんな幸せそうにして、なんだか浮かれているけれども、やっぱりどこか病んでいるんじゃないですかね。そういう感じがすごくします。

Q:なぜそう思われますか?

 写真は時代の写し鏡ですから。それを見事にシンプルで、ストイックな感じに表してくれた表現に対して、評価をするのは当然じゃないですか。



都築響一

Q:授賞の理由は?

 結局ああいう作品を見てみんなが思うことは、どうやって素材を集めてきたかっていうことなんです。素材というか、この場合はリストカットをしている人たちなわけで、なおかつ写真に撮られてもいいよっていう人たちを集めて、それで9割成功だとみんな思っていると思うんです。でも、そうじゃないんです。本当に難しいのはそれからなんです。おそらく、リストカットをしている人たちを裸にして、白バックの前に立たせて写真を撮れば、一見同じような写真は撮れますけど、ああいう目は撮れない。撮っているとすぐわかるんです。片方だけにすごい力があっても駄目なんです。両方の勝負っていうのがあるので、どちらかだけがすごくても駄目なんです。岡田君の写真は、お互い口下手なもの同士が、レンズというものを通してわかり合えたという感じがすごくします。そうでなければああいった表情は、僕にはちょっと撮れない感じがした。たぶんみんな同じようなことを思っていたと思います。僕たちが撮ったら全然違う写真になってしまう。やはり岡田君の年齢があって、岡田君の風貌があって、それから心、精神があって、それで紡ぎだされるなにかがあるのだと思う。デジタルカメラの時代になって、“どれだけ良い機材を使っているのか”、“どれだけテクニックを持っているのか”といったことは、問題ではなくなってきている。今は、自分の中にあるものでしか勝負できなくなってしまっているんです。かつてのように、カメラの値段や経験に頼ることができなくなって、自分の中にあるもの以上のものを撮ることが、本当にできなくなってしまったんです。それまでは、テクニックさえあれば、もう少し自分以上のものを演出することができたのかもしれない。でも逆に、今はそれができないっていう難しい時代。そういう時代に、岡田君みたいな人間は、ああいった写真を撮っていくことから“逃げていない”っていう感じがします。

Q:傷口をまっすぐ見つめた写真だったが?

 それよりも、被写体の表情がすごい。こっちを見ているのか、見ていないのかわからないような目とか、にこやかなのか、死んでいるのかわからないような表情とか、ああいう不思議な感覚が…。たとえば、同じ世代の外国の若者と比べても、明らかに違う雰囲気を持っている。ああいった表情や雰囲気をうまくだせる力っていうのは、すごいなと思います。みんな傷跡に目がいくでしょうけど、何回か見直しているうちに、違うものが見えてくる。

Q;この時代に、この作品を選んだ理由は?

 ここ数年、カメラが簡単になってきた。すごく気楽に、自分の遊びの延長として、かるくエレキギターを弾いているような感じで。楽しくカメラを使って、楽しい雰囲気を作ろうというものが多かった。そういうものばかりに、メディアものってくる。そうではなくて、カメラでしかコミュニケーションできないこと、カメラでしか語りかけることができないこと、そういう世界を撮り続けている人がいるんだ、新しいトレンドではなく、ずっとずっとあったけれども、僕たち年上のメディアに関わる者が、こういう人物を積極的にだしてこなかった、ということなのではないかと思います。だから、こういう機会にそれが少しでもできて、今回は良かったと思います。
  1. 2008/12/30(火) 14:46:24|
  2. 写真集「I am」関連